cf.
週末。
 その男はビッグビジネスの契約を成立させ
一人プレハブの仮オフィスからテレビのライオンズナイターを眺めていた。

 幾度の困難を乗り越えたことであろうか・・・
あの焦燥感、戦慄。まだ緊張感だけ頭から離れない。

 まだ真夜中の県営住宅。
ガレージから現れたのは、男とパールスズキディープブルーの車体。
キーを捻る。シングルの咆哮がすぽぽぽぽんとこだまする。

 昼間は快適な関越下り線。だがこの時間はまさに恐怖だ。
大型トラックから逃げるかのように左車線を駆け抜ける。
 埼玉県を駆け抜け一気に北に向かう。
洗練されたとは言いがたい巨大なライトが
あたかも男の悲哀を慰めるかのように薄暮の道を照らす。

 峠に辿り着く。朝日が男を祝福するかのように 山の向こうから昇り始める。
その明りでオイル量をチェック。大丈夫。減っていない。
張っていた全身の緊張感が一気に抜けた。

 生きている実感・・・そして気付く。私は生かされていたのだ、と。

 畑の農夫が尋ねた。
これでここまできたのか、と。

笑って答える。

まだまだ奥まで行けますよ。

ジェベル200。