・10月15日(土)ポケカス日誌vol.4「高倉健」


風を吹かせているのはジュゴンかアズマオウか、それともまだ見ぬフリーザーか。
兎にも角にも今日のみなとみらいには技2「こごえるかぜ」が吹いている。
そしていちいちそんなくだらないことを考えてしまう俺の思考が一番寒い。
それはそうとアップデートでジムバトルのトレーニングの仕様が少し変わったらしい。
実際に最新版のトレーニングをやってみたが、体感では当然ながら本家の金銀が発売されたあの当時ほどの新鮮味と感動はないものの、一時的ではあるかもしれないがジムバトル中にチームプレーが頻発する程度には一応ユーザーが盛り返してきてはいる。
え?そんなの錯覚?もうお前以外誰もポケモンGOなんかやってないって?
仮に冗談だとしても最高じゃないか、そんな素敵な事態は。
だって、もしもラプラスが出てきたら独り占めにできるんでしょ?
まあそんな具合に普段は集団の中にいる時だけやたらと強気なカッペが一晩丸々無い知恵絞って考えたようなクソしょうもない伝わりづらいニュアンスの煽りを食らわせてきたところで今の俺にかかれば
「え?何言ってんの君。つまり?それは?どういうこと?ん?」
と猫撫で声で相手を子供扱いしてやりながらストレスを倍返しで与えることができる。
素早さの低い俺にとって、みなとみらいはトリックルーム同然の庭のようなものだ。
にしても、ポケモンGO批判は大いに結構なことだが全く最近の世の中ときたら歩くのも面倒臭い休日の父親の鑑のようなヤツらばかりだ。
そんなこんなで手に吐息を吹きかけながらパシフィコ1階のデイリーに入るとフライデーを立ち読みしているスーツを着たハゲがいたので試しに俺も横並びで文春を立ち読みしてみる。
とりあえず大見出しの坂口杏里という女の人生は波乱万丈のようだったが親不孝という点では俺も負けてはいない。
ふと、先日俺が某掲示板の神奈川県のスレッドで臨港パークネタを投稿したせいか、みなとみらいは心なしかいつもよりごった返しているようにも思えたがよくよく考えれば今日は金曜日。どう見ても週末だからに決まっている。
もちろん立ち読みの最中もラプラスのことが頭から離れることはなかった。
今日こそラプラスは姿を現わしてくれるだろうか。
できることなら現実世界の女にもバーチャルのラプラスと同じぐらい愛情を注いでやりたかった。
しかしもう遅い。
もはやここまできてしまうとポケモンGOを辞めても地獄。続けても地獄だ。
今になってようやくこの国を背負って立つ安倍晋三という男の覚悟が少しだけ理解できたような気がした。
ちなみに余談ではあるが俺は決して文春を読みながらクリューバービューシー症候群を発症してラプラスに性的興奮を覚えているわけではない。
ラプラスは恋愛対象ではなく、親友であり相棒(※になる予定)というかけがえのない存在だ。
ふと、桟橋のポケストップがジムになっていることに気がついた。
絶望のあまりもっとおどろおどろしいBGMが脳裏に流れるかと思いきや、なぜか頭の中で再生されたのは初代ポケモンのワタル戦のBGM。
こういう謎めいた不気味なポジティブは俺の昔からの唯一といっても過言ではない誇れる長所のひとつでもあった。
冷たいコンクリートの前に腰を下ろすと悪寒が走った。
10月だというのに深夜のみなとみらいは既に真冬のようだった。こうも寒いと

「なぁ、兄ちゃん。兄ちゃんみたいなマジメな若いのがこんな所で、こんな事してちゃダメだ」

と、仮に通りすがりの高倉健に背後からそっと缶コーヒーを手渡されそう諭されようものならすぐさま俺は改心してポケモンGOを辞め、そのまま俳優を目指すかもしれない。
だが俺の目標は俳優ではない。
ポケモンマスターだ。
そうこうしているうちに寒さに耐え切れずに現地組は1人、また1人と桟橋をあとにしていく。
結局、最終的に寂しさに負けた俺は孤独に耐え切れず、最愛のピカチュウの待つ臨港パークへと向かっていった。