ロスモンにオタマトーンを持てせてあげたい。

「? サボってるの?」
彼女は目線を手元の書類から、自分をじっと見ているドクターに移す。
そうじゃないんだ。ドクターは思う。俺はただ、君にあのおたまじゃくしを持たせて、ちょっと間抜けな「ワーーー」の音を出すところを見せてもらいたいだけだ。

彼女はきっと、不思議そうな顔でオタマトーンの口を開け閉じさせながら、まだ少しふっくらとしてる幼い指を、尻尾の黒い線に沿って上下に滑らせるだろう。そして彼女自身も音の高さに合わせて、小さい口から「わーーー」って声を出して真似する。いや、してしまう。でも最後は、疑問符を浮かせた表情で、小首を傾げてこっちにそれを返すだろう。

「ふふっ」
「ドクター、真面目に仕事しないとアーミヤに言うから」
「ロスモンティス」
「なに?」
「後でいいおもちゃをあげる」

いつものように彼女の頭に手を伸ばした。
後頭部の銀髪から柔らかい感触が伝わり、指先をを広げて、撫でると同時に両耳の付け根を軽く掻いてやった。
「んっ、これも、アーミヤに、言いつけ、るからっ」
彼女はすぐ両手を上げてバタバタと二の腕を叩き、こっちの手を剥がした。
平坦な声に赤らめた頬。執務室の午後に流れた、静かなひと時であった。