【本編5】
アンパンマン「僕は……」
僕は簡単に一言と日付だけを書き、ノートを元の場所に戻した。
アンパンマン「僕は、もうすぐいなくなる、だけどいなくならないんだ」
僕は新しい顔に微笑んで見せると机の中に隠されていたカッターナイフを頭に突き刺した。
アンパンマン「あ、あ……う……」
酷く痛みを感じたのは最初の方だけで、手を入れられるように傷口を開いた後はただひたすら嫌な感じがしただけだ。
アンパンマン「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ」
薄れる意識の中、頭のあんを一握り掴むと、机の引き出しにあった袋に押し込む。
その中には既に随分な量のあんが貯まっていて、次に僕が手記に気が付いたときには実行に移せるだろう。
目の奥でちかちかと光が爆ぜる。
アンパンマン「がが……あっ…あっ……あああああ」
手が言うことを聞かない、頭の切れ目からボロボロとあんが零れた。
膝がガクリと落ち、机に置いていた新しい自分の顔と目があった。
なんとか僕は頭を外し、スライドするように新しい顔を取り付けた。
べちゃり、と床を汚して天井を見上げると、前後逆に顔をつけられた僕がこちらを見下ろしていた。
アンパンマン「あれ、体と頭が変だなあ」
僕は頭を自分で直す様子を床から眺めていた。
アンパンマン「床が汚れちゃった、きっと交換するときに落としたんだね、お掃除しなくちゃ」
僕は僕に掴みあげられ、ごみ箱にダイブした。
なんてことだ。
意識がある痛みもある。
ごみ箱の底に激突した衝撃で頭の切り口がどうにかなってしまったようで酷く痛む痛い痛い痛い痛い痛いた

【本編6】
アンパンマンの手記より
僕の頭では記憶を処理し、体にバックアップする前に一時的に保存しておく。
それはどこで行われるのか、もちろん頭の中でだろう。
僕の頭にはあんが詰まっている。
そのあんに記憶が詰まっているのだろう。
そこで僕は記憶をこのノートとは別の形で残すことにした。
机の引き出しの奥、そこのには僕の頭のあんと同じ量が入る袋を入れておく。
そこに少しずつ頭を交換するまえにあんを残していくのだ。
新しい頭に交換したときに、怪しまれないように気をつけて行うんだ。
他の人に見つかってはいけない。
これを読んでいる僕、もしも袋がいっぱいになっていたら次の段階に進む時だ!