0025優しい名無しさん
2018/12/07(金) 19:07:15.81ID:WkgAIqpB一九九九年、十二月末。
松本ハウス結成から八年。
ハウス加賀谷は、突如としてテレビの世界から姿を消した。
ぼくは小さい頃から、自分の正直な気持ちを口にしたことがない子供だった。
いつも親の顔色をうかがい、求められるであろう、ベストな選択肢を先読みして答えていた。
「バイオリン習ってみる?」
「うん、やってみる」
「水泳教室に行く?」
「それいいね、行ってみるよ」
良い子でなければいけない、親を喜ばせなければならない、そう思い返事をしていた。
いつから親の顔色をうかがうようになったのかは分からない。〔略〕ぼくは、親のプレッシャーをすぐさま感じ取り、良い子にしようといつもしていた。
当時、ぼくの父さんは荒れていた。
お酒が入った父さんが、母さんと喧嘩をするようになっていた。
あまりに辛く、ぼくは母さんに聞いたことがある。
「父さんと、離婚しないの?」
母さんは、諭すようにぼくに言った。
「ママの経済力ではね、あなたを習いごとに通わせてあげる力がないの。潤ちゃんのためなの」
ぼくは加賀谷家の生命線なんだ。母さんの期待に応えるため、もっと頑張らなければいけない、と思った。
「一流の大学に行き、一流の会社に就職することが、潤ちゃんの幸せになるの」
両親に対する反抗心は、自分自身に向けられた。ぼくは、親からもらった自分の体が嫌いだった。脳みそも含めて、ぼくという存在そのものが大嫌いだった。