怖い話「息止め」
俺、漫画家やってて、ちょっとした売れっ子だと自分では思ってる、キャリアも長い。
ペンネームはAにしておく。
最近不思議なことになってて、困ってるんだ。聞いてほしい。
ある年に新型コロナという病気が流行して、伝染病に注意というお達しが来た。
漫画家の仕事ってほら、アシスタントと近づいて作業しないと仕事にならんだろ。
だから俺、しばらく漫画を休業することにした。再開は1ヶ月後か2ヶ月後くらいかと思ってさ。
そのときからかな、寝てるときに夢を見るようになったんだ。
日本の安倍総理が監督になって、息止めオリンピックという大会に出るため、俺が選手になって特訓してる。
安倍監督が俺の後ろに立って、水を張った洗面器に俺の顔を漬けてタイムを測る。
一ヶ月間特訓を続けて大会の予定だったと思う、そのつもりで頑張ったんだ。そしたら…
大会が一ヶ月延長になった、と言われて、また息止めの特訓が始まった。俺は文句言わず頑張ったさ。
そして一ヶ月後、また同じように安倍監督が一ヶ月の延長だと言ってきた。
こんなことも言われたな。偉い教授が言ってたろ、これは長い長いマラソンだ。一度決めたなら最後までやり通せ。
そんなこんなでいままで来てる。ところで、みんなに言っておかなきゃいけないことがあるんだ。
俺、Aの息子だよ。あれからニ十年経っちゃった。
Aはあとの仕事を俺に託して……