ダイオキシン含む除草剤、全国の山林46か所に埋設のまま…水源近くの例も
読売新聞 2022/05/05 09:14
 15道県の計46か所の山林に、半世紀前から猛毒のダイオキシン類を含む除草剤が埋められたままになっている。当時は安全に焼却処理する技術が確立されていなかったためだ。除草剤にはベトナム戦争で、がんや先天性障害などの被害を引き起こしたとされる「枯れ葉剤」と同じ成分が含まれており、林野庁は撤去に向けて検討を始めた。(虎走亮介)

■立ち入り禁止

 <立ち入り禁止 囲い内の立ち入りや土石等の採取をしないで下さい>

 佐賀県吉野ヶ里町の国有林にはそう警告する看板が立ち、一帯は高さ1メートル60の金網で厳重に囲われていた。1971年12月、この場所に除草剤「2・4・5―T系」945キロが埋められた。

 2月下旬、林野庁佐賀森林管理署の職員が、車で10分ほど走った林道の先にある埋設地の点検をしていた。約1キロ離れた場所には、福岡市民の水がめの「五ヶ山ダム」がある。職員は手で金網を揺らし、約20分かけて強度を確認。侵入された形跡がないことや、周囲のササや樹木の植生に問題がないことも確かめた。

 同管理署は月2回の定期点検を続けており、白石健二署長は「これまでに異常が確認されたことはない」と語った。

■当時は農薬

 林野庁によると、各地に埋設されている除草剤は、67年頃から国有林の下草を刈るために同庁が使っていたものだ。当時は農薬に登録されていた。

 しかし、世界各地で健康被害の恐れが報告されたため、同庁は71年4月、使用中止を決定。同11月には埋設を指示する通達を出し、国が管理する全国の山林計54か所に除草剤の粒剤約25トンと乳剤約1836リットルが埋められた。

 通達では、土やセメントと混ぜてコンクリート塊にすることや、1メートル以上の土をかぶせ、水源地や民家から一定の距離をとり、1か所に埋める量は300キロ以内にすると決められた。しかし、84年に愛媛県で漏出が判明したことを受け、同庁が全国調査をしたところ、29か所で通達通りに埋設されていないことがわかった。

 一部は撤去されたが、今も20か所で通達の基準とは異なる方法のまま埋められている。現在は年2回の定期点検と、大雨や地震の後に臨時点検を実施。周辺の土壌や水質を検査しているが、ダイオキシン類の環境基準値を上回ったことはないという。