「ごめん、負けちゃった」
「いや、お前が戦う前から0対4で負けてたし気にするな」

 眼鏡坊主の部長が涙を流しながら俺の肩を叩く。
 青春を捧げてまで部活に打ち込んできた彼の悔しさは俺より強いだろう。

「正直ヒロがいなかったらここまで来れなかったよ。本当にありがとう」

 ヒロ。神坂ヒロ。俺の名前。
 初めて部活に参加した時、人数が足りなかった俺に対して部長が「お前はこの部活のヒーローだな!」って言ってくれたのを思い出す。

「部長、大学に行ってもテニス続けるよな?」
「当たり前だろ。小学生の頃からやってんだぜ? むしろお前の方こそどうなんだよ」
「俺は……」

 問いを投げ返されて答えに戸惑った。
 もちろんテニスは好きだ。これからも定期的に遊びたいとは思っている。
 だけど、“本気でテニスを続けるか”、と聞かれれば即答できなかった。