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カレー乳首のあたりをつまんで、
「あ」
「なに?」
「いや……」
ちょっと気まずそうな顔をした。……え? いまなんか、妙なこと考えなかった?
「なんでもないよ」
とごまかして、また乳首を吸う。……………………あれ? これってまさか。もしかして。
「あのさ、ひょっとしてあんた」
言いかけた時だった。
がたん! 大きな音がした。
見れば、テーブルの下に落ちたマグカップからコーヒーが流れ出て、床の上にこぼれている。「あー!」
思わず叫んでしまった。
「どうしよう!」
「拭けばいいだろう」
「雑巾はどこだっけ?」
「ああもううるさいなあ」
そう言って立ち上がると、リゲルは部屋を出て行った。……あれ? なんかこの展開って……。
戻ってきた彼の手には、バスタオルがあった。それで濡れた床をざっとふき取って、
「はい終わり」
「ありがと……」
「コーヒー入れ直せば?」
言われて、慌てて立ち上がった。新しいカップを用意しながら考える。……ねえ、ひょっとしてあたしのこと子供扱いしてるわけじゃないよね? だってこんなことするなんておかしいじゃん。ていうかそもそもあたし、女だし。いくら仲良しだからって、普通ここまでしないと思うんだけど。……でも。
振り向いたら彼はソファに座っていて、ぼんやり天井を見上げていた。その横顔を見ながら思う。……訊けない。なんでそんなこと考えたのかとか、どうしていきなりキスしてきたのかとか。訊いたら答えてくれるかもしれないけど、だけどきっと教えてくれないだろう。
代わりにあたしは言った。
「ね、今日泊まってもいい?」
「え」
彼は驚いたようにこちらを見た。
「駄目だよ、親御さん心配するだろ」
「大丈夫、うち共働きなんだもん。それにほら、うちのお袋って放任主義っていうかさ、あたしが何やっても文句言わないし」
「だけど……」
「じゃあさ、明日学校休みだから昼まで寝てる。それから一緒に出かけようよ。そしたら誰にも見つからないよ」
「うーん……」
困ったような表情になる。
「僕だって君んちのお母さんに怒られたくないしさ」
「いいよ、うちの母ちゃんなんか気にしないから。あたしがお願いすれば許してくれるもん」
「でもなあ……」
まだ迷っている様子だ。
「頼むよ。お願いします」
両手を合わせて拝むようにすると、リゲルはため息をついた。
「しょうがないなあ。本当に君は甘えん坊だなあ」……それどういう意味? やっぱりガキあつかいされてる気がするんですけど。
だけどあたしは何も言えずに、ただ笑って見せただけだった。
「ところでさ、あたしたちこれからどうなるんだろうね」
ベッドの中であたしは言った。
リゲルは