私どもは裏庭を隔てた場所で生きてゐる顔を合はせた。見渡す限りの家がいちどうに倒れてゐる。靑い光と强風のやうな爆風とは全市をおほい、アツといつた間に殆どすべては崩れ倒れてゐたのである。美しかつた森の空地には近所の方の誰彼が をしたたらせて集つて來た。

その間に見た現実はこの世の 卷であつた。
河原は引き潮で細い清らかな水の流れ外は白い熱砂であつた。そのうへに点々と人が座り寢ころび佇んでゐた。
六日は一日ちゆう爆発のおとがとどろき火のついた大きな や板橋が强風に吹きあげられて のうへにふりかゝつた。
空は なほ く、潔い雲のなかを眞紅の太陽の火玉がどんどん落ちて來た。
七日になつて河原に來た救護班の手當をうけた。
七日の夜は朝まで綺麗な東京の言葉で
「お父さまアお母さまアー いいのよウー いいのよウ。おかへりあそばせエー」
と絶叫しつづける若い娘の聲が聞えた。「氣がちがつたのね」と私たちは涙を流しとほした。