「アイイイイイ!!」
雪国の家の壁は厚い。とりわけ、裕福なファトゥスの持ち家の壁は厚い。どれだけ盛大な嬌声を上げても、外には聞こえないので無問題である。
舌を垂らして涎も垂らしたタルタリヤの目の焦点は合っていない。本来なら、物を出しはすれど入れることのない肛門に挿入した張形――ディルドに前立腺を苛まれる快楽。
一人の男の人生を狂わせるには十分な苛烈がそこにはあった。
潤滑液と体液で濡れる岩元素で作られた張形は、一般的な鉱石とは感触が異なる。摩擦で熱を持ちやすい性質があった。生体のように熱く、僅かに弾力がある。
魔性の偽男根で前立腺を責めるようになった代償はあまりにも大きい。
「アイ! アイ! アイ! アイ!」
床に立てた20p陰茎模型に腰を幾度も落としては獣のように吼える。
タルタリヤの敏感になりすぎた前立腺は、戦いの中で下穿きとチンポが擦れるだけで発情を起こした。椅子で尻を圧するだけで海綿体が硬くなり、女の乳揺れを見れば3発抜くまで勃起が止まらなくなる有様である。更には、射精しても気分が落ちることはなくなり、一度は冷めた欲望もすぐに鎌首を持ち上げた。
些細なきっかけで日に何度も性欲に駆られた。
こうも彼が狂ったのは、誕生日がきっかけだ。
その日、若きファトゥス11位、タルタリヤの私室には沢山の誕生日贈り物が集っていた。チャラ男と揶揄されることもあるが、端正な顔立ちと面倒見の良さから、組織内での人望は厚い。
「うーん、これはなかなか」
プレゼントは値段ではない、とはいうものの、包装から出てきた骨董品は質感から値打ちがあることが伝わってくる。
祝いの心のこもったプレゼントを貰えば、悪い気はしないものだ。
上機嫌なタルタリヤが次に掴んだのは、小ぶりながらも優雅さと品性を感じさせる黒と赤いリボンの巻かれた箱である。
「っと……淑女からのプレゼントか。意外だな」
義理にしても、彼女から生誕祝いを貰うとは予想外だ。一体何を企んでいる? 眉根を寄せるが、すぐに思考を切り替える。
仮にも女性からの祝いの品だ。疑うのは、後でいい。
そして開いた先にあったのは、小瓶だ。
酒にしては小さい。同封された紙を見てみれば、高級ローションと記されているではないか。
何に使えって言うんだよ。流石のタルタリヤも呆気にとられる。それから、ふっと頭に浮かぶのは、彼女なりの誘惑なのでは? という思考。
しかし、瓶を手に取った瞬間にわかにざわついた心を嘲笑うように「独り身を慰めなさい」と瓶の下の窪みに綴られていた。
「チッ!」
至極自然に舌打ちしたタルタリヤは、次の箱を手に取る。金色の石を紙のように薄く切られている、継ぎ目一つない箱だ。目を凝らして表面を見れば、光の注ぎ方によって紋様が無数に浮かぶ。
あまりに精巧で、人の力で作られたものとは思えない。
「……」
何故か猛烈に嫌な予感がしたが、考えることをやめて開く。
大小様々な張形が七つ並んでいた。
「あの野郎!」
どこから見ても男性器にしか見えない男性器の形をした男性器を模したものが七つもあるのだ。とんでもないセクハラ。青筋を立てた眼前に並ぶ張形―――ディルドに声を上げたタルタリヤは、箱の裏に文字が彫られているのを発見する。

『公子殿は肛門を用いた快楽を追求していると聞き及んでいる。楽しんでもらえれば幸いだ。
鍾離より』

公子は激怒した。
だが結論として、好奇心に勝てなかった。