>>636
——俺が伝説の夜を超えて桃井さんを買取ります

あれからいくつもの月が沈んでいった。
何人もの腕に身を預けてもその言葉を忘れずにいたのは、安易な方法を選んだわたしと違って自分の力を信じる彰人くんにすがっていたのだろう。
もはや誰からも相手にされず、元大物アイドルの桃井愛莉と言っても誰も信じないほどヨボヨボのお婆ちゃんになってしまった。きっと伝説の夜を超えたところで逃げるように姿を消したわたしを見つけるのには苦労したに違いない。
それでも彰人くんは現れた。CDをもった腕は細くなっても、皺が深く刻まれた顔になっても、眼だけはあの頃のまま——

「お迎えに来ました、桃井さん」