防衛費増額の財源確保へ1兆円規模の増税方針を打ち出した岸田文雄首相に対し、閣内や自民党幹部から異論が相次いでいる。政府は週内に財源問題の結論を得たい考えだが、決着の仕方によっては政権基盤が揺らぐ恐れもある。


 高市早苗経済安全保障担当相は10日、ツイッターに「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信した首相の真意が理解できない」と書き込み、「反論の場もないのか」と政府内の手続きを問題視。西村康稔経済産業相も9日の記者会見で、有力視される法人税の増税に慎重論を展開した。
 これに対し、松野博一官房長官は12日の記者会見で「首相の考えは閣内でも共有されている」と述べ、「閣内不一致」との指摘を打ち消した。
 与党は週内に2023年度税制改正大綱を決定する見通し。増税反対論に屈し、安定財源の年内決定を先送りすれば、首相の求心力のさらなる低下は避けられない。周辺は「首相も相当なリスクを取って臨んでいる」と代弁する。
 自民党幹部は「高市氏の発言は辞表を出してもおかしくないくらいの話。『問題なし』とすれば、みんなせきを切ったように反対を言い出す」と述べ、首相は更迭など強い覚悟で臨む必要があると指摘した。
 ◇首相VS安倍派
 異論は党内からも出ている。萩生田光一政調会長は11日、国債償還のルール見直しも「検討に値する」と述べ、償還費の一部を防衛財源に充てる案に言及。ただ、事実上の借金の繰り延べになるとして、政府は慎重だ。
 世耕弘成参院幹事長も政府方針に慎重論を唱える。世耕氏は西村、萩生田両氏とともに最大派閥の安倍派幹部。今は派閥に属していない高市氏を加えた4氏はいずれも、国債発行による財源確保を生前主張していた安倍晋三元首相に近かった議員だ。
 「岸田首相対『安倍氏なき安倍派』の対決構図だ」。ある政権幹部はこう形容する。政権発足当初から安倍派を閣内や党幹部に起用してきた首相。支持率が低迷する中、増税方針を貫けるかが焦点だ。(2022/12/13-07:04)