「桐谷さん、ゲーセンに興味があるんですか?」
「そういうわけじゃないんですけど……目が、合っちゃって」
「目が……? ああ、このクレーンゲームのぬいぐるみですか」
「あっ、すみません。用もないのに立ち止まっちゃって……。青柳くんはこういうの、きっと興味ないですよね」
「いえ。少し意外に思うかもしれませんが、俺も好きです」
「本当ですか!?」
「はい。こういう掴みどころのなさそうな形を見ると、どうやって掴もうかとつい考えてしまいます」
「すごくわかります! このコロンとしたフォルムがたまらなくて……。つい鷲掴みにしたくなっちゃいますよね」
「鷲掴み……。なるほど、そういった技があるんですね。具体的にはどういった掴み方を?」
「えっ、具体的にですか? それはもう……こう! ですよ! こう!」
「それは頭からでしょうか?」
「頭もお尻もです」
「アームの可動域を最大限に利用するというわけですね。参考になります」
「……あの……青柳くん」
「はい。なんでしょうか」
「今、私たちがしてるのって……ぬいぐるみの話ですよね?」
「……? はい、この景品をどうやって取るのか、という……違いましたか?」
「違ってはないんですけど……なんていうか……今のは忘れてください」
「それは……一体どういう……」
「き、気にしないでください! ほら、青柳くんには青柳くんの得意なやり方? とか、あるでしょうし」
「あくまで正解はない、ということですね。わかりました」
「わかってもらえたならよかったです」
「そういうことでしたら、桐谷さん。俺がやってみるので、側で見ていてもらってもいいでしょうか」
「え? はい、いいですよ。でも、この台ちょっと難しそうに見えますけど……」
「そうですね。ですので、俺のやり方を見てアドバイスをもらえたら、と。それにさっき、目が合ったって言ってましたよね。ええと……」
「……この子です」
「ペンギン……が、お好きなんですか?」
「はい……もう大好きで……」
「そうでしたか。では、もし取れたらお譲りします。今日一日、付き合ってもらったお礼もしたいと思ってましたので」
「いいんですか!? こんなに可愛いのに……私がもらっちゃって……!」
「取れるかどうかはまだわかりませんが……」
「青柳くん」
「はい?」
「絶対、取ってください」
「取れるかどうかは……」
「お金ならいくらでも出しますから!」
「それはもはや普通に買うべきなのでは……?」