「甲子園球場はチケット完売のため入場できません」

大会期間中の朝の阪神電鉄梅田駅でしばしば耳にする場内アナウンス。当日券を求めて球場に向かおうとする人たちへ高野連からの情報提供である。

にもかかわらず、甲子園球場前の高架下広場には当日チケットを求める長蛇の列ができている。これは、第1試合に人気カードが組まれた日は第2試合以降に空席の出る可能性があるため、チケットの再売り出しを待っている人たちなのだ。

2015年の選手権大会期間中の入場者数は86万2000人。これまでの最多である1990年大会の92万9000人には及ばないが、それでも歴代5位の数字である。早実の清宮選手や関東一高のオコエ選手らの活躍が多くの観客を引きつけた結果かもしれない。

これだけの観客を動員しながら、高野連の入場料収入は7億4000万円程度に過ぎない。観客ひとりあたりにするとたった860円ほどである。なぜこのようなことになるのだろうか。

2万席ある外野席が無料!

その理由は入場料にある。甲子園大会のチケット代はきわめて安く設定されている。バックネット裏中央特別自由席は2000円だが、内野特別自由席は1500円(こども600円)、
応援団が陣取るアルプス席は600円、全部で2万席ほどの外野席にいたっては無料である。

経済原則に従うならば、需要超過は価格上昇によって解消される。ところが主催者である高野連は値上げには後ろ向きだ。

まず、外野席の有料化についてだが、アルプス席が600円であることを前提とするならば400円程度の料金設定になるだろう。
しかし、それで1日あたり800万円の増収が見込めたとしても、チケットの印刷代やもぎりの人件費などを考えると採算がとれないというのが高野連の見解である。

それなら、これだけの人気を誇る高校野球なのだから、いっそのことプロ野球公式戦なみの料金設定にすればどうかという考えがあるかもしれない。
ちなみに阪神タイガースの公式戦のチケット代は、バックネット裏8000円程度(シーズンチケットのため1試合平均の料金)、内野席4500円、アルプス席2500円、外野席1900円(平日、一般、大人の料金)となっている。

実際、高野連があれだけの大会を15日間も運営するためには、大勢のスタッフが必要になるだろうし、阪神電鉄が所有する甲子園球場の使用料も相当な額になる、と多くの人は思うはずだ。

球場使用料・放映権料なし、理事も無給

ところが、現実はこれとまったく異なる。甲子園大会の運営に直接かかわる高野連理事は無給だし、大会期間中に選手たちを陰でサポートするスタッフは高野連OBが務めていて、こちらもボランティアだ。
さらに、本連載の第1回で述べたように、審判委員にも報酬は支払われていない。

さらに驚くべきなのは、高野連が甲子園球場の使用料を払っていないことだ。もちろん、グラウンド整備などに要する費用は負担しているものの、15日間にわたる大会で最もカネがかかると思われる球場使用料が無料なのである。

また、これだけ人気のコンテンツなのだから、高野連には全試合放送するNHKや大阪朝日放送などから多額の放映権料が入ってくるように思われるが、こちらも無料だ。このように徹底した非商業性を貫いているのが高校野球なのである。

http://toyokeizai.net/articles/-/129526?page=2