>>856
将棋の才能に男女差はありません。
私の弟子の中で一番才能があったのは林葉直子でした。
「女流棋士」ではなく男性と同じ「棋士」になる、それもタイトルをいくつも獲るような強豪棋士になるほどの才能でした。
しかし、そうはならなかった。

あるときから彼女の将棋に対する姿勢が変わってしまった。
難しい将棋の勉強をするよりも、女性としての魅力で「女流らしい仕事」をするほうが楽に儲かる、そう氣付いてしまったのです。

彼女は女流棋士として十分活躍しただろう、と言う人がいますが、それは違います。
「女流にしては」活躍した、それだけです。
羽生と比べて、佐藤と比べて、森内と比べて、あるいは他の男性強豪棋士と比べて、彼女は活躍したでしょうか。
将棋の研鑽を怠らなければ、彼らに並ぶほどの活躍をしていたのです。
私は師匠として残念で仕方ない。

彼女の才能を潰してしまったものは何か。
女性というだけで下に見て男性との競争をさせない構造上の問題でしょう。
私はこれを変えたい。
当然、抵抗はあります。
女流に競争なんて必要ない、今のままでいいんだ、今さら将棋の勉強なんてしたくない、と。

しかし、現在の女流棋士は男性棋士のように文化の担い手として尊敬されうる存在でしょうか。
女性としての価値を除いて、一人の将棋指しとして扱われているでしょうか。
未来の才能ある女性が、プロの名に恥じない意氣で将棋に取り組み、将棋普及担当としての「女流棋士」ではなく「真の棋士」として活躍し、男性からも尊敬されるようにする。
そのために、私は将棋連盟会長としてこの仕事をやりとげなくてはならないのです。

  日本将棋連盟会長・永世棋聖 米長邦雄