“ゲーム機”戦争から“ゲーム”戦争へ

これまで、ゲーム機戦争は限られた市場のなかでの戦いだった。メーカーが開発スタジオを抱え、サードパーティーとソフトの限定契約を結び、市場での独占率を上げていくことが至上命題だったのだ。この限られた市場のなかで、プレイヤーたちは自身が保有するデヴァイスによりよいソフトが多く供給されることを願って部族化(結束)し、ほかの部族を威嚇してきた。

そして2020年11月、ソニーが「プレイステーション 5」(PS5)を、マイクロソフトが「Xbox Series X」と「Xbox Series S」を市場に投入した。「Nintendo Switch」をここに加えて、2021年以降は3社のデヴァイスが新しい世代のゲーム機の覇権を争っていく…というわけにもいかないことを、スペンサーも、ソニーや任天堂の経営陣も重々承知しているだろう。

クラウドゲームをひっさげて、グーグルやフェイスブック、アマゾンといった大手テック企業がゲーム配信事業に参入してきた。クラウドゲームではゲームの演算はサーヴァー側で処理され、その結果だけがユーザーが操作するデヴァイスに表示される。小さなスティックが刺さったスマートテレビやスマートフォンがあれば、高解像度の3Dアクションゲームをプレイできる。これらのサーヴィスは未来の話ではなく、すでに始まっているのだ。

高度な処理をおこなうゲーム機の役割が終わろうとするなかで、既存メーカーとそれに代わる企業による競争、つまり“ゲーム機”戦争ではなく“ゲーム”戦争への移行が始まった。

マイクロソフトはゲームのサブスクリプションサーヴィス「Xbox Game Pass」の事業拡大を急ピッチですすめている。Xboxがファンを引き付けるのは、デヴァイスの優れた性能であると同時に、豊富なライブラリだ。Game Passに契約すればライブラリのあらゆるゲームを定額料金で遊ぶことができる。PCでもXboxでも、そしてスマートフォンでも。

マイクロソフトに比べ、ソニーや任天堂は「ゲーム機に依存しないゲーム体験」へ積極的に舵を切る様子はないものの(念のため書いておくと、クラウドゲーム「PlayStation Now」はすでに5年以上運営されている)、これらの企業のアドヴァンテージは優れた開発スタジオを有し、ファンをひきつける知的財産を抱えていることだ。2021年以降、ゲーム専用機の体験とその他のデヴァイスでの体験をどのように融合させていくか、あるいはバランスさせていくかは注目に値する。

“ゲーム機”戦争が“ゲーム”戦争に変わっても、ファンたちが互いに絆を深め、同じサーヴァーで仲良くゲームをプレイする、というふうにはならないだろう。クロスプラットフォーム化したゲームにおいて、異なるデヴァイスを使用するプレイヤーたちが罵り合っている様子は(エイムアシスト、チーター、といった単語で検索をかければすぐわかる)、嗜好によって部族化し、互いを傷つけあう文明の縮図かもしれない。


但木一真|KAZUMA TADAKI
ゲーム業界のアナリスト・プロデューサー。著書に『eスポーツ産業における調査研究報告書』(総務省発行)、『1億3000万人のためのeスポーツ入門』〈NTT出版〉 がある。「WIRED.jp」にて、ゲームビジネスとカルチャーを読み解く「ゲーム・ビジネス・バトルロイヤル」連載中。
https://wired.jp/2021/01/02/wired-insights-for-2021-game-business-1/