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ソニーG、ゲーム失速の懸念 投資余力見劣り

ソニーグループの稼ぎ頭であるゲーム事業が失速する恐れが強まっている。半導体不足でゲーム機の供給制約を解消できず、キャッシュフローが伸び悩む。業界の再編機運が高まるなかで投資余力は海外勢に見劣りする。10日発表の2022年3月期決算では市場の懸念を払拭できるかが課題となる。

(中略)

先行きは不透明感が増している。警戒されているのは、21年3月期に営業キャッシュフロー(CF)の4割弱、フリーキャッシュフロー(FCF)の6割を稼いだゲーム事業の失速だ。会社計画では22年3月期の金融事業を除く営業CFを前の期比2割減としている。23年3月期にキャッシュフローを再び伸ばせるかは、ゲーム事業が左右する。

ゲーム機「プレイステーション(PS)5」は半導体不足のため供給量を増やせずにいる。20年11月の発売から1年余りたつものの、21年12月末時点の累計販売台数は1700万台強にとどまる。21年5月時点では23年3月期に2260万台以上の販売を目指すと掲げていたが、ハードルは高い。モルガン・スタンレーMUFG証券の小野雅弘氏は「今期の販売計画が1700万台を下回れば市場の反応はネガティブ」と指摘する。

米ネットフリックスの会員数が22年1~3月期に減少へ転じたのも、連想売りを呼んでいる。ソニーGもエンタメ分野でネットフリックスのようにサブスクリプション(定額課金)型サービスを強化している。市場は巣ごもり需要の反動やサブスクのピークアウトがソニーGでも起きるのではと懸念する。

加えて逆風となっているのは、業界の再編機運が高まっていることだ。22年1月には米マイクロソフトが687億ドル(約9兆円)を投じて米ゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードを買収すると発表した。米投資銀行ドレイク・スター・パートナーズはゲーム業界のM&A(合併・買収)や出資などの金額が22年に1500億ドルと前年比8割弱増えると予想する。

野村証券の岡崎優氏は仮想空間「メタバース」をめぐり「コンテンツの囲い込みやプラットフォーム間の競争が激化し、ソニーGの競争優位性が失われていく可能性がある」と指摘。2月に類似企業比較法によるゲーム事業の価値算定で業界平均に比べて20%のディスカウントを適用し、同事業の価値を3兆1650億円と1割下方修正した。足元のソニーの時価総額(約13兆6700億円)の2割の水準だ。

投資競争になればソニーGは不利だ。1月末に米バンジーを36億ドルで買収すると発表し、4月には米エピックゲームズに10億ドルを追加出資すると表明したが、いずれも小粒だ。世界のIT(情報技術)大手に比べて投資余力に乏しく、積極投資しようにも限界がある。

ソニーG(金融事業除く)の21年度の売上高営業CF比率は11%と、マイクロソフト(46%)や中国の騰訊控股(テンセント、31%)に大きく見劣りする。営業CFはマイクロソフトの9分の1、テンセントの3分の1だ。営業CFの5年前比の成長率も2.1倍にとどまり、マイクロソフト(2.3倍)やテンセント(2.7倍)を下回る。