堅実か無難か

ライトユーザーを意識しつつ、遊びごたえのある中身に仕上がった「3Dバトルアクション」。タイトルが今もなお健在であることを示すためにいつものFFを語る「ストーリー」。この2本の柱が持つ「安定した体験」を唯一の個性にまで押し上げているのが、本作最大の特徴である、作品の各所に張り巡らされた「エンディングに到達するまでゲームがプレイヤーを引っ張る」工夫である。

現在スマートフォンに対応したゲームや、ストリーマー文化の普及を通じ、ゲームを遊ぶ層は拡大の一途にある。これを見て大手企業は「マス受け」を狙った作品を作る際、より細かな難易度設定を行ったり、作品のターゲットを一本化しないゲームデザインを採用するようになった。しかしながら実情として「買ったゲームを最後までプレイしない消費者」は多い。だが先述したように『FF16』は『FF15』によって損なわれた「FFはシナリオが魅力である」という信頼を回復するという使命を背負っているため、プレイヤーにエンディングへ到達してもらわなければならない。そこで開発陣がとった施策は、シナリオ進行の障害になりうる要素を視界から徹底的に排除することであると考えられる。

これはプレイヤーが自主的に行う難易度調整において「低難易度」「高難易度」という言葉を用いることで生じる精神的抵抗を取り除くことに始まり、頻発するカットシーンとQTEの挿入はシナリオを少しでも前に進めるための工夫となっている。合わせて、QTEの入力内容を固定化したり、召喚獣バトルを平時の戦闘のシンプル版にすることで、覚える内容を減らし、強引に誘導されるプレイヤーの負担を軽減。ゲームに没入させる。本作をプレイしていると、カットシーン中にQTEが来るタイミングを察知し、特定のボタンを先行して連打している自分に驚くことになるだろう。ゲームをストップさせずに用語の解説を閲覧できる「アクティブタイム・ロア」とシナリオの時系列を分かりやすく確認できる図面の存在は、シナリオ主導のRPGにとって「発明」と呼ぶに相応しい、最高の要素である。中でも「アクティブタイム・ロア」はリアルタイムで変化するため、プレイヤーの確認欲求を刺激し、結果としてシナリオや世界観の理解度を自主的に向上させる(シナリオがわからないからプレイを止めるというリスクを減らしている)。

シナリオの山場と遊びの山場を完全に切り離しているのも特徴的だ。多くのゲームであれば、プレイアブルな要素がすべて解禁されるタイミングと、シナリオの山場の調整を行い、完全解禁をなるべく早めに行うものではあるが、本作は要素の解禁を「プレイヤーの負担」とみなし、間隔を開けることを優先。遊びの部分が一番盛り上がるタイミングを「クリア後の周回プレイ」に設定している。これに関連して、コア向けの要素をすべてシナリオの進行上から削除し、自主的にそれを探してアクセスする必要がある形にすることで、プレイヤーが「私が遊べないコンテンツが存在する」という落胆とモチベーション低下のリスクを減らしている。同じく能動的にアクセスする必要のあるサブクエストについては目立つアイコンを用意し、逆にアクセスしやすくしている。本作の売りの1つがストーリーであることを端的に示す施策である。

コア層がもつコンテンツに能動的に取り組む姿勢への信頼によって成立しているこれらの施策は、安定した面白さを提供するデザインに仕上がった「3Dバトルアクション」「ストーリー」に挑むプレイヤーを強烈にバックアップするだけに留まらず、『FF16』に「ゲームをクリアさせることに特化させたゲーム」という個性を与えるまでに至っている。この個性の成立はゲームの鑑賞方法が多様化した時代性を如実に反映するものでもある(筆者の知人にもゲームは難しいからストーリーだけ味わいたいという人は多くいる)。

総じて、『FF16』は幅広い需要に対応した「3Dバトルアクション」と、いつも通りのFFを語る「ストーリー」という2本の柱に、「エンディングに到達するまでゲームがプレイヤーを引っ張る」工夫を添えることで、個性と呼べるまでに至った「体験の絶対的安定感」を獲得している。これは物語体験の完遂を最優先事項とした結果生まれたものであり、ゲームを遊ぶ人間の属性が多様化した現代だからこそ成立したものである。そして、この試みは見事達成されている。ジェットコースターのような仕様の中で、「FFはシナリオが魅力である」ということを再認識することができた。また、作品の個性である「絶対的な体験の安定感」の形が、お使いとフィールド探索で構成されたクラシックなJRPG体験になっているのは、クラシック回帰に熱心な昨今のスクウェア・エニックスにおける方針とも一致している、古典主義的な態度の象徴とも呼ぶことができるだろう。

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