虚淵玄(シナリオライター)

ダンガンロンパV3の結末に心揺さぶられた者の一人として、この奇稿をさせていただく。
「未来ある輝かしき天才児たちが死と絶望の淵に叩き落とされる」という退廃的シチュエーションに、
淫靡な興奮を懐く背徳感、それが初代の強烈無比なるエポックだった。
だがシリーズ化され派生の回を重ねれば、いずれエポックはスタンダードへと転じる。
天才児たちは毎度おなじみ定番の手順で絶望し、ただ当たり前のように死ぬ。
驚きも興奮も一度限りの宝物。回を重ねて常習化すれば、いちど脳に出来た回路を追体験するための嗜好品にしかなり得ない。
だがV3は、人気コンテンツが長期化するに及んで不可避となる問題構造そのものをトリックとして逆手に取った。
真相が明らかになった際の心のざわめき、ヤバい物を直視してしまったという気まずさと悪寒は、まさに初代ダンガンロンパに叩きつけられた感覚に回帰させられるものだった。
原点にして終点、これほど美しい物語の締め方はない。
絶望は、モノクマの醜悪なる闇はスクリーンの中には留まらない。
それを見守る視聴者の内側にこそ巣食っているのだという啓示。
「背徳に耽るための観客席に座ったあなた」を最後に告発するという結末は、かつて先人も幾度か挑戦しきた構図ではあるが、成功させるのは至難の業だ。