ハウス加賀谷『統合失調症がやってきた』

一九九九年、十二月末。
 松本ハウス結成から八年。
 ハウス加賀谷は、突如としてテレビの世界から姿を消した。

 ぼくは小さい頃から、自分の正直な気持ちを口にしたことがない子供だった。
 いつも親の顔色をうかがい、求められるであろう、ベストな選択肢を先読みして答えていた。
「バイオリン習ってみる?」
「うん、やってみる」
「水泳教室に行く?」
「それいいね、行ってみるよ」
 良い子でなければいけない、親を喜ばせなければならない、そう思い返事をしていた。

 いつから親の顔色をうかがうようになったのかは分からない。〔略〕ぼくは、親のプレッシャーをすぐさま感じ取り、良い子にしようといつもしていた。

当時、ぼくの父さんは荒れていた。
 お酒が入った父さんが、母さんと喧嘩をするようになっていた。

あまりに辛く、ぼくは母さんに聞いたことがある。
「父さんと、離婚しないの?」
 母さんは、諭すようにぼくに言った。

「ママの経済力ではね、あなたを習いごとに通わせてあげる力がないの。潤ちゃんのためなの」
 ぼくは加賀谷家の生命線なんだ。母さんの期待に応えるため、もっと頑張らなければいけない、と思った。
「一流の大学に行き、一流の会社に就職することが、潤ちゃんの幸せになるの」

両親に対する反抗心は、自分自身に向けられた。ぼくは、親からもらった自分の体が嫌いだった。脳みそも含めて、ぼくという存在そのものが大嫌いだった。