いや、全然大丈夫だよ。

この前もどうしょうもないどうでしょうなカブを見たんだ。

ライダーは英字の煽り文句が印刷された派手なバイクウエアを着た道の駅でよく見るようなハゲ散らかした小太りのおっさんだ。
その姿は一般の人からすると特異とすら言える。
冷蔵庫みたいは大きなボックスをカブに乗せて休日にいったいどこに行くのだろう。
その白いボックスの後部にはお決まりのあのステッカーである。

「水 曜 ど う で し ょ う 」

まるで版を押したような、量産型カブ乗りの無個性なスタイルではあるが彼にとってはそのスタイルが刺激的でオンリーワンなのであろうか。

時間は土曜日の朝8時半、彼は自慢のカブでコンビニに乗り付け朝から肉まんを手にする。

これを実にうまそうに食べる。

いまから同じ志を共にする白髪混じりの素人童貞のカブ愛好家たちと山奥でアドベンチャーごっこに興じるのだろう。
その顔は熱い肉まんを頬張ったせいか少し高揚しているようであった。
おもむろに走り出したその彼の背中には

「H I G H W A Y M A G I C I A N」

少年の心を持った醜いアヒルはやはり夢から覚めないようだ。
その姿を横目に私は住宅ローンと一緒に購入した中古のヴェルファイアで愛する子供をソフトボールに送るのあった。