――平成時代。
 少なからず日本では武力による争いがなくなり、人々は平穏な日々を過ごしている。
 戦争≠ニいう言葉はもはや歴史の遺物となって、記憶は時の砂漠に埋もれつつある。

 まさしく泰平を成した時代。国際化社会とはよく言ったもので、街中を何処かの国の観光客が歩いていることなど、もはや日常茶飯事だ。

 ――もし、仮に。
 この平穏な生活が、得体の知れない巨大な力によって与えられているものだとしたらどうだろう。言うなれば人類は、舞台で火の輪をくぐる猛獣であり、今は飴と鞭でいう、飴の時代を生きていて。
 全ての人類が何者かに糸を引かれていて、その見知らぬ存在のさじ加減一つで安寧が容易く覆されてしまうものだとしたら。
 その舞台の役者たちは、果たして真なる平穏を謳歌していると言えるだろうか。

 しかし、演ずる者は脚本通りにしか動けない。キャラクターは、筆を執った者の存在を認識する事すらないまま終を迎える。これもまた一つの事実である。