お母さん、
雨の信号はいつも横断歩道のわきでパックリ口を開けているあなたの卵巣が
真っ赤に腫れあがった太陽の記憶をゴミ箱から引きずり出し
そこから一匹の虫がこそこそ逃げ出そうと
28万5120時間の暗闇をめぐりながら
夕餉の食卓に頻繁に出された玉ねぎの味噌汁を頭からかぶり
ズブ濡れになった幸福の思い出を今か今かと待ちわびる
自閉症の子供の通信欄に
「僕のお父さんは公務員です」と一人で書き込む恥ずかしさを誰かに教えたくて
放課後の来るのを待ちきれず教室を飛び出して一目散に家をめざしたのだけれど
もれそうになるオシッコを我慢して教えられた通り緑色に変わったら
渡ろうとしていた信号が
実は壊れていたんだと気づいた時にはすでに終わっていたんです
お元気ですか

お母さん、パンツのはけない留置場は寒いです
水洗便所の流す音がうるさくてなかなか寝付けないので
犯罪者はいつもこっそりセンズリをかくのですが
「おかげであなたの夢ばかり見る」と取調室でしゃべったら
刑事はさも嬉しそうに「親孝行しなけりゃいかん」と昼飯にカツ丼を
おごってくれたのですがタヌキウドンのほうが食べたくて
「父親は嫌いだ」と言ったら自衛隊かぶれの隣りのヤクザが
真っ赤になって怒りだし「贅沢は敵だ」などと勝手なことをほざいたので
「おまえなんか生まれてこなけりゃ良かったんだ、この貧乏人め」と
つい口をすべらせてしまったのです
お元気ですか