目の前に静かに佇む老兵を眺めながら、こいつとの付き合いはもうどれくらいになるだろうか、とHummelは考えていた。
M44とは新兵の頃からの付き合いだ。やつはTierが違うのに先輩面することもなかったし、口数も少なかったせいか不思議と馬が合った。
何度も修羅場を乗り越えてきたが凄まじいものだった。俺の背後に密着したT-37を直射で倒してくれたこともあった。
レティクルも絞らずに撃つもんだから俺の履帯ごとブッ飛ばしやがって、あの時ばかりは殺してやろうかと思ったものだ。
当時はM41 HMCだったか、実際には7秒も絞っていたら俺は確実に死んでいただろうから文句を言うこともできなかった。そういう天性のカンの持ち主だ。
俺と違ってそれほどの実力を持っていたのだから当然だが、上層部からは将来のT-92として有望視されていた。戦場の主役になるだろう、と。
そうでなくたって教官でも何でもできるだろうに、軍の要請を蹴って隠居したと聞いた時は驚いた。愛国者だと思っていたが気が変わったのだろうか。
最近は戦争で親を失った孤児を引き取って面倒を見てるらしい。
課金弾を使わないから貯金はたんまりあるんだ、などと言っていたが…俺には疑問だった。
上層部の再三の指示で軍に戻るよう説得に来た今日、それが確信に変わった。
こっそりガレージを覗いてみたがあれだけ溜め込んでいた修理キット(大)がどこにも見当たらない。売っぱらって経営に充てているのだろう。
自走乗りなら絶対に手放せないはずの装填棒も射撃装置も無かった、きっと二度と戦う気は無いのだろう。
未だ軍に残る俺としてはやはり戻って来てほしい。上層部の指示ではなく俺個人としても、だ。
榴弾の爆風で爛れた俺には、M44が幸せなのだとわからなかった。
軟弱者め、と罵るつもりだったが庭先でT1 Cunninghamと遊んでいるAMX ELC bisを見たら言う気が失せてしまった。
「ごめんなさい、T1 Cunninghamが横転しちゃってて!すぐ戻りますね!」
そう言ったAMX ELC bisの車体には、傷一つ付いてはいなかった。