残暑はあるものの、吹き抜ける風に秋の匂いが仄かに感じられた。夜の帳が下りようとしていた。
JRの駅から少しばかり離れている自宅に程近いジムで、ルギアのレイドバトルが行われている事に気が付いた。
『おっ⁉︎ルギアだ。何度も逃げられてまだ獲れていないんだよなぁ。残り30分か…でもあそこなら人がいるかもしれない。』
そう思うと足早にジムへと向かった。そこには参加者と思われる人達が散見された。
『何人かいるしとりあえず入ってみよう。』
深い事を考えずにバトルボタンをタップした。バトル開始まで45秒、急いで選抜メンバーを選定してから参加者を確認した。
『6人か…少なくても9人は確認出来るんだけど、ゲットチャレンジ中なのかな。平均レベルも30あるかないかだし、これは無理だな。』
何度か出入りを繰り返すが、人数は4人だったり5人だったりでなかなか増えない。残り時間も10分を切り、いよいよ焦りとともに半分諦めもし出した時だった。
自転車に乗った青年がやって来て、声をかけてきた。
『こんばんは〜、ルギアですか?どんな感じでしょうか?』
私は現状を説明した。
『なるほど、了解です。』
そう言うと辺りを見回して、彼はおもむろに声をあげた。
『すいません!ルギアをやられている方、時間もないですしみんなで一緒にバトルしませんか?』
そう言うや否や駐車中の車内にいた人にまで声をかけていた。チラリと覗かれたスマホの画面からレイドバトル参加者と判断したらしい。
離れ離れに立っていた人達も彼の元に集まってきた。
『それでは皆さん、入りましょう!』
彼の号令と共にバトルボタンを押すと、そこには12人が名を連ねていた!
平均レベルはさほど高くはなかったが、それでも死闘の末に残り10秒でなんとか勝利を収めた。
ゲットチャレンジが終わると彼は、
『ありがとうございました!皆さんのおかげで倒す事ができました!』
と笑顔で言い残してその場を去っていった。
家に帰り初めて捕獲したルギアを眺めながらあの時のことを回想した。
『あの場の誰一人としていなかったら勝てなかったんだよなぁ。彼が来てくれて、そしてみんなをまとめてくれた。決してトレーニングレベルが高いわけじゃないのに。あれがリーダーか…ありがとう。』
若きレイドリーダーの存在を確信した瞬間であった。