>>695
「ウチが広島に目つけとるのは課長も知っとるやろ。あそこは中国・四国の拠点都市や。
を西日本全体に広げたい、その扇の要の拠点として広島に橋頭堡を置くっちゅう
のが明石社長の中長期j経営戦略のひとつやな。
そこでや、社内きってのイケイケドンドンのあんたに社長が『岩井にやらしたらどうや』
と白羽の矢を立てはったっちゅうわけや。
どないや。広島に出張って岩井信一ちゅう男を上げてみいひんか。広島ちゅうとこは気
の荒い奴がやたらに多い。おまえが大好きな東映ヤクザ映画やVシネにそのまま出ても
おかしないビジネスパーソンだらけや。
どないしてもわしらと仕事がバッティングする山守物産、ここの山守社長が策士でな、口
八丁手八丁で広島市内の弱小処を吸収して、最近では飛ぶ鳥を落とす勢いらしいわ。
ところがや、この山守のタヌキにもウィークポイントがあるんや。常務取締役の広能昌三
ちゅうのとどうやら反目の間柄らしいねん。いずれ社を割って出るちゅう噂まである。
この広能を搦め手にしてや、本丸に攻めこむちゅうのもええかもわからん」
「部長、ぜひわしにやらせてください。同じシノギ、あ、すんまへん、同じ業務でメシを食う
とるとこはひとつでも減らした方がええに決まってますがな。やりがいがおますわ」
「そうか!引き受けてくれるか。わしの目に狂いはなかったな。こういう仕事は岩井課長
しかやれんのや。どうしても他の奴は腰が引けてまいよるさかいな。
おまはんをダシにするようやけど、わしも来期には取締役の声がかかっとる。それには大
き手土産がいるわな。わしはおまはんに賭けてみたいんや。その代わりちゅうたらなんや
けどわしが役員室入りすりゃ今度はおまはんがこの部長席に座るわけや。
ここはひとつ腹くくって男になって来いや!わしの頼みでもある」
「相原部長、頭上げとくなはれ。わしもそこまで言われりゃ男冥利につきますわ。やりまっせ。
この岩井信一一世一代の仕事やってみせまっさ」
ただでさえ感激屋でどこか単純なところがある岩井ゴルゴは目頭を熱くさせながら、心奥か
燃え立つおのれの炎に身を焦がし、広島入りを決意したのであった。