冷え込み厳しい冬の日。関東に住む女性(80)の家に
「引きこもり自立支援」をうたう民間業者がやってきた。
同居する長男は当時40代半ば。仕事を辞めて部屋に引きこもるようになり
既に20年が過ぎていた。

スタッフ5人が部屋に入って30分ほど後、長男は出てきた。
「すごく泣きました」とスタッフ。
女性は着替えを詰めたスーツケースを持たせ、「頑張ってね」と声を掛けた。
長男はうつむき、無言で家を出て行った。

女性が最後に見た長男の姿だった。

長男は都内の施設に入り、その後、提携する熊本県内の研修所に移った。
ほどなくして、業者から「熊本で就職した」と報告を受けた。
自立を妨げないようにと、女性は連絡を控えていた。

今春になって突然、業者から電話が入った。
「息子さんが亡くなりました」
女性は警察署で痩せこけた長男の遺体と対面した。ひげが数十センチ伸びて
脚は骨と皮ばかりになっていた。
遺体が見つかったアパートの室内には、ごみ袋やペットボトルが散乱し、冷蔵庫は空。
「元気で仕事をしていますか」とつづった女性の手紙が、血の付いた状態で残されていた。

アパートにあった離職票や金融機関の口座を調べると、17年12月に介護施設に就職
翌年7月に退職。それから8カ月ほどし、家賃や電気料金の引き落としが滞っていた。

「業者が丁寧にフォローしてくれていれば、こんなことにならなかったのでは」。
熊本に移る前、女性は業者に400万円近くを追加で支払っていた。
その際、研修終了後も月2回、長男と面談すると約束してくれたはずだった。
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