鈴木 僕はCGは専門で勉強していたので、矢木(博)さん、梶(俊之)さんたちハードウェア部署の人たちと喧々諤々しながら作っていきました。
あの当時はすごくやりあったなあ。矢木さんと僕が討論を始めると半径2メートルから人がスーッといなくなってね(笑)。それで最初にできたボードの描画能力が300ポリゴン。

堀井 300ポリゴン! スーパーファミコンの『スターフォックス』よりちょっと多いくらいですよ。

鈴木 「これでは表現したいものにはならない」と、まだ矢木さんと何度もやり取りして、500、800ポリゴンと増えていって、最終的にMODEL 1が完成するわけなんです。
たしか18万ポリゴンくらい出ていたかな?

堀井 さっきの“ナイト「GAME ON」”の話だと、鈴木裕さんに言われて「わかったよ、要は三角形がいっぱい描ければいいんだろう!」というところから開発をスタートしたというエピソードがあって。
できるかできないかわからないけど、ラフなところからでも、「まずはやってみよう」の精神に感激しましたね。

鈴木 だって3Dの知識なんてなんにもなかったんだからねえ。隠線処理、隠面処理、Zバッファ……そういう基礎的なことも手探りでしたからね。

堀井 ところで裕さんは「これからは3Dポリゴンだ!」と先駆けたわけですが、社内にほかにもそういう声はあったんですか?

鈴木 僕の知っている範囲ではいなかったなぁ。

堀井 やっぱそれくらいの温度かぁ。でも『バーチャレーシング』が成功したことで変わったその後のセガに、ものすごい影響を与えていますよね。
メガドライブの後継機であるサターンの設計が大きく変わったり。

鈴木 つぎを目指してどうこうという人がいなかったんでしょう。採用基準として好きな人ばかりを採っていた。
中華料理を食べるのが好きな人と作るのが上手な人とは別なんですけどね。
プログラム的には、2Dと3Dは考えかたからして違うのに。

堀井 2Dの開発は極端な話、算数の知識でどうにかなりますよね。

鈴木 そう。3Dになると(奥行きを示すための)透視変換が入るので、ダイレクトにはイメージできなくなる。
少なくとも高校数学の数I、数IIくらいは理解していないと行き詰まってしまうんですね。

堀井 そうそう、透視変換! その当時メガドライブで『スタンランナー』を作ろうとしていたんだけど、プログラマーから透視変換の話を聞いてチンプンカンプンだったのを思い出した。

鈴木 当時のハードウェアは、いまみたいに優れたCPUじゃないですから、足し算や引き算が12サイクル(クロック)必要だったのに対して、掛け算は20サイクル、割り算に至っては120サイクル必要だった。
そのため、プログラム側の工夫として、どれだけ掛け算や割り算を使わないでプログラムを書くか、というのがテクニックだったんです。

https://s.famitsu.com/news/201611/02117920.html