北野武「例えば、Xっていう殺し屋がいるとするじゃない。そいつがA、B、C、Dを殺すシーンがあるとする。

普通にこれを撮るとすれば、まずXがあらわれて、Aの住んでいるところに行ってダーンとやる。
今度はBが歩いているところに近づいて、ダーン。
それからC、Dって全部順番どおりに撮るじゃない。

それを数式にすると、例えばXA+XB+XC+XDの多項式。
これだとなんか間延びしちゃう感じで美しくない。
XA+XB+XC+XDを因数分解すると、X(A+B+C+D)となるんだけど、これを映画でやるとどうなるか、という話が"映画の因数分解"。

最初にXがAをすれ違いざまにダーンと撃つ。
それから、そのままXが歩いているのを撮る。それでXはフェードアウトする。

それからは、B、C、Dと撃たれた死体を写すだけでいい。
わざわざ全員を殺すところを見せなくても十分なわけ。
それを観て、"Aを殺したのはXだとわかったけど、その他のやつらを殺したのは誰なんだ"と思ってしまうバカもいるとは思うけど、そういうやつははなから相手にしていない。

これを簡単な数式で表すと、X(A+B+C+D)。

この括弧をどのくらいの大きさで閉じるかというのが腕の見せどころで、そうすれば必然と説明も省けて映画もシャープになる。」