飯塚大和

コロナ禍に見舞われた4月から、「Nintendo Switch」(以下、スイッチ)のソフトが、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている。
ゲーム情報誌『ファミ通』の週間ランキング(集計期間=4月13〜19日)では、トップ30のうち23本を任天堂のソフトが占めた。
同ランキングによると、「あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)」の推定販売本数は28万6586本。2位のPS4用ソフト「ファイナルファンタジーVII リメイク」(7万652本)も決して低い数字ではないが、実に4倍以上の差が開いている。
単に「あつ森」だけがブームになったわけではない。ここ最近のスイッチがPS4に大きく水をあけた背景には、今の「世相」も大きく影響していそうだ。識者への取材を基にその理由を探った。

スイッチが急速に勢いを伸ばしたのは、日本がコロナ禍に陥った後のことだ。

『ファミ通』によると、1週間あたりのスイッチの本体販売台数(4月20〜26日)は、10万7104台(スイッチLite含む)。
前年同期の売り上げは4万2108台だから、6万台以上も増加した。
同じく巣ごもりの恩恵を受けたPS4も、前年同期と比べ1万8889台増えて3万3056台と伸びてはいるが、販売台数の比較でみればスイッチとはかなりの開きがある。

両者の「差」を考える前提として触れておきたいのは、ソニーはPS5の発売を年末に控えている点だ。
当然、今PS4の売り伸ばしを図るインセンティブは弱くなり、売り上げの見込めるビッグタイトルを年末以降にキープしている可能性もある。
また、PS4の累計販売台数は約1億1000万台で、歴代の家庭用ゲーム機で2位の売り上げを誇る。
累計販売台数が約5500万台のスイッチに比べ、市場の伸びしろが少ないという事情もある。

とはいえ、こうしたハンディを考慮しても、スイッチの勢いは目を見張るものがある。

カルチャー雑誌『PLANETS』副編集長の中川大地氏いわく、

「PS5の発売を年末に控えている状況下で、(PS4は)末期のハードとしては大健闘と言ってもいい数字です。しかし、『あつ森』のブレークも手伝って、スイッチの勢いがそれをはるかに超えているのです」

コロナ禍という特殊な状況下で、スイッチが飛躍的に伸びた要因はいくつか考えられる。

まず挙げられるのは「ライトユーザーとの親和性の高さ」だろう。

ゲーム業界全体が増収増益の傾向にあるように、今は外出自粛で時間を持て余す人が増え、普段はあまりゲームをやらない層がゲームに手を出しやすい時期といえる。
ゲームに詳しい評論家のさやわか氏はこう指摘する。

「ゲーム初心者の『入り口』として、フレンドリーなゲームが求められるようになった」

その点、任天堂は『マリオパーティー』をはじめ、初心者や子どもを交えて遊べるような「敷居の低さ」を重視してきた。
家族や友人と気軽に楽しめるソフトを充実させてきたことはライトユーザーを取り込む上で大きな強みとなった。

一方のPS4は、年齢層の高いコアな男性ゲーマーを中心に支持を集めている。
『DARK SOULS』シリーズに代表されるように、スイッチと比べるとユーザーは高度なアクション性を求める傾向が強い。

「こうした操作性の高いゲームは、新規ユーザーにとって手が伸びづらい。結果的に、コロナ禍で生まれたライトユーザーや新規ユーザーは任天堂に流れていきました。
(ステイホームで)時間を持て余した人たちにとって手を出しやすいソフトが、スイッチでは『目の前にあった』のに比べ、PS4では見つけにくかったということでしょう」(同前)

また、スイッチのソフトに多くみられる「かわいいデザイン性」も追い風になった。
数年前からトレンドに敏感な女性がライトユーザーとしてゲーム市場に流れてくる傾向があったが、外出自粛の影響でそれが加速。
「女性受けするデザインかどうか」がPS4と明暗を分けたとみることもできる。

中川氏は「スイッチの看板ソフトは、デザイン性において明らかに女性に強い」と話す。

「女性も参入しやすいような仕様は、DSやWiiの時代から連綿と続いてきた任天堂のカルチャーと言えます。
(今回のコロナ禍で)コアなゲーマー層以外に、任天堂が築き上げてきた『かわいいデザイン』が刺さった」

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