老舗のホビーメディア「ホビージャパン」編集者のSNSでの発言について、株式会社ホビージャパンが、該当者の退職処分をはじめ、担当取締役や編集長も降格処分とするかなり重い処分を行なった。

 ホビーファンの中には、「当然だ」という方もいれば、「一個人の私的な発言がここまで大きな処分につながるのか」という見方もあるとは思うが、「転売行為の容認」はホビー業界にとって絶対に受けいれられないものだ。転売行為は、「良いホビー商品をユーザーに届ける」というホビー業界の理念そのものを阻害し、破壊する。その意見を許容してしまえば、編集部のみならず、「メーカーとユーザー」というホビー業界の最も根本的な関係が破壊されてしまうからこそ、ホビージャパンは、極めて短期間で重い処分を下したのである。

 言うまでもなくホビーは昔から存在してきたが、悪質な転売問題が騒がれるようになったのは最近の話だ。ホビー業界に転売行為が生まれた理由は、皮肉にも「欲しいものがユーザーの手に届くようになった」というとても幸福な状況が実現できたからでもある。

 ネット販売が活発になる2010年以前は、高額のホビー商品の入手は難しかった。小売店に入ってくるのは少数で、その少ない入荷はどうしても常連客が優先になりがちだ。年に数度だけ「どうしてもこの商品が欲しい」と一念発起して商品を買うような筆者のようなユーザーは懇意になる販売店もなく、入手が難しかったのだ。

 この状況は、家電量販店がホビー商品を力を入れて扱うようになり、商品の売り場が増え販売数も伸びていったことで徐々に改善に向かう。そしてAmazonや楽天の通販サイトの登場である。大型店舗が近くにないユーザーも予約をきちんとすれば欲しい商品が入手できるようになった。こういった状況は「大人のためのホビー商品」という市場を活性化した。現在の様々なメーカーによる作り手のこだわりに満ちた商品展開は、「欲しいと望むユーザーに、その価値がわかる商品が届く」という非常に幸福な状況を生み出したのだ。

 しかしここに「転売屋」が押し寄せてくる。彼らはコンサートチケット、アイドルグッズ、限定品など、多くの人が欲しがるが数量が限られる商品に目を付け、ユーザーとの間に収まることで、彼らからお金をかすめ取っていた。彼らはまず高額のホビー商品に目をつけた。ネット販売、ネットオークションはこういった転売屋の参入の障壁も下げ、今や転売をする人を押しとどめようがないほどに大きくなっている。

 ここに「巣ごもり需要」がさらに状況を悪化させた。新型コロナウィルスの感染防止の中、人々は「家の中でできる楽しみ」としてホビー商品を求めた。「ガンプラ」は人気の定番商品や新製品の需要が大きい。転売屋はここに目をつけ、人気商品や新製品を片っ端から買い占めたのだ。今やホビー商品を求める人にとって転売屋は「目の前の障壁」として立ちはだかっている。

 彼らがなぜ"悪"なのかという根本の問題をもう1度考えてみたい。彼らは「良い商品を届け、さらなる良い商品を届けたい」というメーカーと、「良い商品が欲しい」というユーザーの関係を破壊する存在だからだ。

 欲しい商品が手に入らないというのは、ユーザーにその商品のみならず、次の商品や、そのジャンルそのものへの興味を奪いかねない。趣味だからこそ「手に入らないなら、もういいや」と思わせてしまう。商品を手にしたからこそ興味が深まり、他の商品や、もっと良い商品が欲しくなる。転売を目的とした買い占めはこういったホビー市場の正常なコミュニケーションを根こそぎ壊してしまう。

 ユーザーのマーケットに対する不信はメーカーが最も避けなければいけない問題である。買い占められてしまうことで、メーカーや小売店の信用そのものが失われる。欲しいのに買えない、こういう状況が続けば、「良い製品だと思うけど、どうせ買えない。何でこんな状況になっているんだ」と誰もが思う。それは単純に「転売屋がいるから」だが、ユーザー心理としては、製造するメーカーや、販売する小売店も悪い、と言う印象になってしまう。まさに誰一人望まない、幸せにならない状況を転売行為は生み出しているのである。


 そして転売屋にとって、この悪化していく状況は全く関係がない。彼らは「売れる商品をかすめ取り、差額で利益を出す」事だけが目的なのだから、メーカーに疑心暗鬼になってしまったユーザーによって、悪化した市場がどうなっても関係がない。転売によって正常なマーケットが痩せ細り、焦土と化してしまえば、転売屋はまた別のマーケットに乗り移るだけだ。

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