FF・ドラクエ頼み限界か、スクエニ株下落の背景に長期業績低迷懸念

ゲーム大手スクウェア・エニックス・ホールディングスは株価の起爆剤となることが期待されていた「ファイナルファンタジー(FF)16」の発売から現在までの間に時価総額にして2500億円以上を失った。市場からは熱狂的なファンに支持されてきた過去の名作の威光が弱まり、同社の長期的な業績の低迷を懸念する声も出ている。


  スクエニのこれまでの成長は、1980年代から続く人気シリーズであるFFや「ドラゴンクエスト」に支えられる部分が大きかった。しかし6月22日に発売されたFFシリーズ最新作の売り上げが期待を下回り、先月4日に発表した4−6月期(第1四半期)決算で大幅減益が明らかになると空気が一変、翌営業日の株価は13%下落した。その後、同社を担当するアナリストのうち半分以上が目標株価を下げ、三井住友トラスト・アセットマネジメントはスクエニ株の持ち分を減らした。

  ゲーム業界で名前が広く知られる同社だが、近年では新たな人気シリーズの創出で販売増を目指した試みの大部分が失敗に終わり、時価総額でカプコンや米アクティビジョン・ブリザードといった競合の後塵(こうじん)を拝している。スクエニが置かれた現状は、業界全体にとって品質管理と新作の企画がいかに重要かを再確認させるきっかけになっている、とスクエニのゲーム開発に関わった開発者やアナリストらは述べている。

  「ゲームソフト市場を未完成、低品質または十分に検証されていないタイトルであふれ返らせるのは悪い動きだ。スクエニはあまりにも多くの本数をおのおのにあってしかるべき監修なしに出してきてしまった」と東京在住のゲームファンで開発者でもあるマイケル・プリフォンテイン氏は話す。

  ゲームファンの一部はスクエニから出されるスマートフォンゲームの大部分で十分な計画や品質管理がされておらず、その結果短期間でサービス終了に追い込まれていると不満を示している。匿名を条件に語ったスクエニの現役や元従業員らによると、同社のゲーム開発の問題の根本は、ゲーム制作における意思決定のほとんどがプロデューサーに委ねられている点にあるという。



  スクエニではプロデューサーはゲーム制作全般のあらゆる事項に対して決定権を持ち、欧米のスタジオでは標準的な、権限を分散化するためのチーム体制や開発の指針となる文書作成といったことに対する意識が希薄だという。同社から仕事を請け負った経験がある複数の開発会社幹部は、スクエニのプロデューサーは他社と比べて多くの場合で指示が曖昧で、その結果やり直しが多く、完成したゲームの品質を見る力が弱いという。

  そうした体質は、同社のゲーム品質が安定しないという現状を引き起こす一因になっている。ゲームレビューで低い点数を記録し売り上げも伸び悩んだ「フォースポークン」「バビロンズフォール」「ヴァルキリーエリュシオン」といったタイトルがその例だ。

  スクエニは先週、同社最大のヒット作の一つであるFF7をテーマにしたスマホゲームをリリースしたが、売り上げ推移は投資家からの期待を下回っており、株価は今週年初来安値を更新した。

  ゲーム開発の体制を改革するのは時間がかかる作業だ。UBS証券の福山健司アナリストは向こう数年にわたりスクエニの業績に対する投資家からの期待は薄いとみている。

  FFとドラゴンクエストという2大タイトルに依存し、過去作の焼き直しを続けてきたスクエ二。同社のゲームからのユーザー離れが懸念される中、新たな柱を早急に打ち立てられるかが成長の分かれ目だという。

  「現時点で見えている景色から判断すると、今期や来期はおろか5年先も同社の先行きに対し明るくなれる材料はあまりない」と福山氏は話した。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-13/S054XYT0G1KW01