ソニー傘下のゲーム開発企業Insomniac Games(インソムニアック・ゲームズ)は先週、ハッキング被害により、その事業のほぼ全容がネット上に流出するという大打撃を受けた。発売前のゲームのストーリーや従業員の個人情報のリークは深刻な影響を生むものだが、それとは別に、会社上層部の内部文書から流出した情報(個人情報でもなくネタバレでもない)からは、ゲーム事業をめぐるソニーの計画と苦悩や、大きな予算を投じて開発される「AAA(トリプルエー)」ゲーム全般の持続不可能性が浮き彫りとなっている。

そうした情報の中でも最も驚きなのは、今年発売された『Marvel's Spider-Man 2』の開発費が3億ドル(約430億円)だったというものだ。これはとんでもない金額で、1作目の予算の3倍に当たる。『Spider-Man 2』はPlayStation独占タイトルとしては史上最速の売れ行きを記録したとされるが、それでも初動売上高では開発費を回収できなかった計算だ。こうしたゲームは長期にわたって売れ続けるものなので(前作の『Spider-Man』はPS4で最も売れた独占タイトルになった)、いずれは元が取れるだろう。ただこの状況からは、このモデルがいつまで続けられるのかという深刻な疑問が生じる。

流出文書で指摘されているポイントのひとつに、『Spider-Man 2』に前作の3倍のコストがかかっていることがプレイヤーにわかってもらえるかどうか、という疑念がある。同作は1作目よりも規模が大きく、複雑なミッションや主人公が2人という点では前作より少し拡張されているものの、1作目やスピンオフ作品からゲームプレイや街の大部分など、多くの要素が流用されている。それなのに、3倍のコストがかかったのは、いったいどういうことなのだろう?

同作は巨額を投じたおかげで、批評家からの総合評価である「メタスコア」がインソムニアック製ゲームとしては初の90点に達し、ファンからも好評を得たが、予算があまりにも膨れ上がると、いくら高評価を得たとしても、いずれは正当化できなくなる。もし、出来上がったゲームがいまいちのクオリティーで、大ヒットにはならなかったとしたら? これほどの予算を投じたゲームを作り続ければ、いつかは失敗し、会社に深刻な打撃をもたらす恐れがあることは想像に難くない。

これはソニーに限ったことではないが、特に同社にとって大きな問題であることは明らかであり、この文書から若干の危機感がうかがえる理由でもある。ソニーは、批評家からも高く評価される大作シングルプレイゲームの開発で知られている。しかし、ゲーム賞を受賞したとしても、必ずしも収益の増加にはつながらない。またソニーは、独占タイトルを発売時にPS向けにしか販売できないことや、購入後の継続的な収益が望めないこと、コストが膨れ上がっていることから、非常に危うい状況に陥りつつあるように思える。

これを踏まえると、ソニーが最近、ライブサービスゲームに力を入れていることは、いくぶん理にかなっているように思える。ただ、この計画は全くうまくいっていない。開発を予定していたライブサービスゲーム12本のうち、6本が無期限延期となった。さらには、その中でも最も注目度が高かった『The Last of Us』のオンラインゲームは、開発が完全に中止された。さらに、ソニーが36億ドルで買収したライブサービスゲーム開発企業のBungie(バンジー)では最近、運営する『Destiny 2』のプレイヤー数が激減し、売上高が目標を下回る状況が続いている。

AAAゲームを作っている会社はソニーだけではなく、これはゲーム業界に共通する問題だ。例外として、こうしたモデルを続けられるシリーズも一部存在する。例えば『Grand Theft Auto VI』(GTA6)は、どんなにコストがかかろうとも、発売と同時に10億ドルを稼ぎ、その後も『GTA6 Online』からさらに数十億ドルの収入をもたらすことだろう。ただし、他の大作ゲームの大半はそうはいかない。

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